なぜ同じ結果でもあがり症の人の満足度が低いのですか?

あがり症克服方法  > よくあるご質問(FAQ)  > なぜ同じ結果でもあがり症の人の満足度が低いのですか?


条件や結果は同じはずなのに、あがり症の人は結果に対する満足度が低いと聞きました。なぜ同じ結果でもあがり症の人の満足度が低いのですか?




ジェームズの公式に当てはめて考えると理解が深まります。


 あがり症と自己評価は非常に密接な関係にあり、あがり症を改善していくうえで重要なポイントの一つとなるのが自己評価です。自己評価の低さは、あがり症をはじめとする社会不安と密接な関係にあることが研究によって証明されています。

 なぜ同じ結果でもあがり症の人の満足度が低くなるのか。“ジェームズの公式”と呼ばれるものに当てはめてみると、理解が深まります。


自己評価の心理学 なぜあの人は自分に自信があるのか(クリストフ・アンドレ、フランソワ・ルロール著、紀伊國屋書店)P.217より


 ジェームズの公式

 ウィリアム・ジェームズ(1842年ー1910年)はアメリカにおける実験心理学の創始者のひとりであるとともに、自己評価について初めて研究した学者のひとりでもある。

 ジェームズはある時、ある人が持っている客観的な長所とそれに対する本人の満足度との間には直接的な関係がないことに気づいて驚を覚えた。

 《たとえば、ある人はそれほど才能に恵まれているとは思えないのに、自分に対して絶対的な自信を持っている。これに対して、別の人は才能にも恵まれ、まわりからもそれを認められているのに、自分の能力にどうしても自信が持てないのである》

 ここから出発して、ジェームズは<人間の満足度は成功したかどうかにだけかかっているのではなく、その成功が望み以上のものだったかどうかにもかかっている>と結論し、次のような公式を導きだした。

自己評価=成功/願望

 これはすなわち、<何かに成功すれば、確かに自己評価は上がる。だが、その成功は本人の願っている以上のものでなければならない>ということである。


 以前、あがり症の人が劣等感を抱くメカニズムとして「かくあるべし」という考えが非常に強いことが挙げられる、という話を紹介したことがあります。

 「斯(か)くあるべし」とは、「このようなものであるべきだ」という意味です。あがり症の方は、この“かくあるべし”という考えが非常に強い特徴があります。常に完全を求め、高すぎる理想を抱いてしまうために現実とのギャップに苦しんでしまう。理想と違う自分に劣等感を感じてしまうのです。

 例えば、セミナー講師として多くの人の前で話す経験がない人がいたとします。この日のセミナー参加者はおよそ200人。あなたもぜひ、その状況を想像してほしいと思いますが、これだけの聴衆を前にすれば(しかもセミナー講師経験が無ければ)誰だってあがってしまうものです。

 強い緊張や不安から動悸が激しくなる、身体が震える、手やワキに汗をかく、そんな状態になるはずです。せっかく練習してきても、いつもの10分の1の力しか出せないかもしれません(繰り返しますがこれはごく自然なことです)。

 この状態をジェームズの公式にあてはめてみるとどうでしょうか。

自己評価(1)=成功(10)/願望(10)

 こんな具合になります。200人を目の前に緊張し、10分の1の力しか出せなかったため「成功」を数値化すると100点満点中10点。一方で、「セミナーが初めての人間が最初から成功するわけもない」と事前の期待値(願望)も低かったため、分母となる「願望」を数値化すると10点。結果として10/10で自己評価は1となります。

 一方で、あがり症をはじめとする社会不安の方はどう感じるでしょうか。

自己評価(0.2)=成功(10)/願望(50)

 こんな具合になります。200人を目の前に緊張し、10分の1の力しか出せなかったため「成功」を数値化するとやはり100点満点中10点。一方で、「かくあるべし」という考えが非常に強いあがり症の人は、初セミナーにも関わらず事前の期待値(願望)は50と高めの設定。分母となる「願望」50点に対して、成功が10点。結果として10/50で自己評価は0.2となります。

 成功の数値は同じ10点にも関わらず、願望や自己評価の基準を一般の“それ”よりもずっと高いレベルに設定しまう傾向にあるため、自己評価に5倍の差が生まれてしまうのです。

 これが同じ結果でもあがり症の人の満足度が低くなってしまう要因です。